
半導体は現代社会の縁の下の力持ちです。スマートフォンから洗濯機に至るまであらゆるものに搭載されており、私たちが依存する電子機器の「頭脳」ともいえる存在です。突き詰めれば、過去数十年にわたって私たちが経験してきたデジタル革命を可能にしたのはチップ技術に他なりません。この技術がなければ、今日の世界経済を支えるシームレスな接続性は実現しなかったでしょう。
今後、世界のデジタル化が進み、人工知能(AI)、クラウドコンピューティング、医療技術といった分野が発展するにつれ、半導体業界は大きく拡大していくと見られます。PwC1によると、世界の半導体産業は2030年までに1兆ドル規模に達する可能性があり、これは2021年時点の規模の約1.7倍に相当します。この業界の成長から恩恵を受ける有利な立場にあると見られる企業の一つが、台湾積体電路製造(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company、通称「TSMC」)です。世界最大2の半導体メーカーであり、業界における重要なプレーヤーです。
半導体の巨人
TSMCは台湾と米国の両市場に上場する台湾の多国籍半導体メーカーです。1987年にMorris Chang(モリス・チャン)氏によって設立され、他社向けにチップを製造することのみに特化した「ファウンドリ専業」というビジネスモデルを生み出し、業界に革命をもたらしました。
現在TSMCは、Nvidia、AMD、Apple、Samsung、Qualcomm、Broadcomなど、ほぼすべての大手チップ設計企業向けに製品を製造しており、世界の半導体の60%以上(最先端半導体に限れば90%以上)を生産しています。そのため、テクノロジー・エコシステムにおいて極めて重要な役割を果たしています。
最先端の製造プロセスで知られる同社は、長年にわたり半導体製造技術の進歩の最前線に立ち続け、7nm、5nm、そして現在は3nmチップの量産に成功しています。チップの大半は台湾で製造されていますが、米国、日本、ドイツ、中国にも製造拠点を有しています。
過去10年間の大幅な成長
過去10年間、世界のデジタル化が進み半導体需要が高まる中、TSMCの売上高と利益は大きく増加してきました。2024年の売上高は2兆8,940億台湾ドルとなり、2015年比で243%増加しました。2024年の純利益は1兆1,730億台湾ドルとなり、2015年比で282%増加しました。

出典:LSEG、2025年4月21日時点

出典:LSEG、2025年4月21日時点
この期間の力強い成長に寄与した2つの要因は、スマートフォンの技術革新とハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)の成長です。成熟市場ではあるものの、スマートフォンは依然としてより高性能で効率的なプロセッサを必要とし続けており、これがTSMCの最先端ノード生産に恩恵をもたらしています。一方、人工知能、機械学習、データ分析の爆発的な成長により、高性能プロセッサやアクセラレータへの需要はかつてない水準に達しています。現在、HPCは同社の売上高の約50%3を占めています。
複数の長期的成長ドライバー
今後、複数の新興テクノロジーが先端チップへの需要を押し上げると見込まれ、TSMCにとって追い風となる可能性があります。具体的には以下が挙げられます。
人工知能 — AIには膨大な演算処理能力が必要です。半導体、特にCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理装置)は、効率的な演算処理に必要な処理能力を提供します。
5G接続 — 世界的な5Gネットワークの展開が、高度なチップへの需要を押し上げています。これらのチップはスマートフォン、ネットワークインフラ、IoT(モノのインターネット)機器に使用されています。
電気自動車(EV)と自動運転車 — EVと自動運転技術の台頭により、自動車業界は今まさに大きな変革期を迎えています。これらの技術は、バッテリー管理、運転支援システム、自動運転機能など、さまざまな機能において先端チップに依存しています。
再生可能エネルギー — チップはクリーンエネルギー・エコシステム全体で使用されています。太陽光パネル、風力タービン、バッテリー管理システム、スマートグリッド、各種センサーや制御機器などに搭載されています。
これらすべての技術は、TSMCが製造する先端チップに大きく依存しています。これらの分野が今後も拡大・進化を続ける中で、同社は持続的かつ増加する製品需要を享受できる有利な立場にあると考えられます。

出典:Precedence Research、2024年11月13日時点
米国での製造能力
TSMCのチップの大半は現在も台湾で製造されていますが、同社は地政学リスクの低減を図るべく、近年米国での製造拠点の拡大を進めています。
2020年5月、同社はアリゾナ州に先端半導体製造工場を建設するため120億ドルを投資する計画を発表しました4。その後、2022年12月に第2工場、2024年4月に第3工場の計画をそれぞれ発表しています。
さらに直近では、今年3月にTSMCは既存の米国投資を1,000億ドル追加増額すると発表し5、米国内に新たに3つの製造工場、2つの先端パッケージング施設、そして大規模な研究開発チームセンターを建設する計画を明らかにしました。これらの工場では、5nm、4nm、3nmチップを含む先端半導体の生産が予定されています。

これらの一連の投資は、TSMCと米国の双方にとって戦略的に重要な意味を持ちます。TSMCにとっては製造拠点の分散化につながり、地政学リスクに対するヘッジとなる可能性があります。米国にとっては、国内半導体生産の強化、海外サプライヤーへの依存低減、そして安全保障の強化につながる可能性があります。ドナルド・トランプ米大統領は、この合意の結果としてTSMCは業界全体に課される二桁の関税を回避できると述べており、これは同社の2024年第4四半期の売上高の75%6を北米が占めていたことを踏まえると重要な意味を持ちます。
2025年のガイダンス
TSMCの2025年第1四半期決算説明会で、CEOのC.C.魏(ウェイ)氏は、米国の関税によるリスクはあるものの、現時点で顧客行動に変化は見られていないと述べました。同氏はさらに、短期的にはAIチップへの旺盛な需要が事業を下支えすると見込んでいると付け加えました。
ガイダンスについて、同社は2025年の売上高成長率を米ドルベースで約25%7と見込んでいると発表しました。また、2024年から2029年にかけては、米ドルベースで年率換算約20%の売上成長を経営陣は見込んでいます。
成長に向けた有利なポジション
総じて、TSMCは今日の世界のテクノロジー産業の中心に位置しています。卓越した顧客基盤と先端チップ製造能力を有する同社は、世界が高度な演算能力への依存を強めるにつれ、繁栄していく可能性があります。
もちろん、地政学的な問題は依然としてリスク要因です。しかし、AI、5G、自動運転といった変革的技術の登場は、いずれもハイエンドチップへの需要を押し上げており、同社は長期的な成功に向けて有利な立場にあります。
脚注:
1 PwC、State of semiconductor industry、2024年11月28日時点
2 JP Morgan、Eye on the Market、Outlook 2025
3 Refinitiv Streetevents、Edited Transcript, Q4 2024 Taiwan Semiconductor Manufacturing Co Ltd Earnings Call、2025年1月16日時点
4 TSMC Arizona、2025年4月22日時点
5 TSMC、TSMC Intends to Expand Its Investment in the United States to US$165 Billion to Power the Future of AI、2025年3月4日時点
6 TSMC、Quarterly Management Report、2025年1月16日時点
7 TSMC、2025 First Quarter Earnings Conference、2025年4月17日時点