
絶えず進化を続けるコンピューティングの世界において、Arm Holdingsほどの影響力を持つ企業は多くない。高性能かつ電力効率に優れたプロセッサで知られる同社は、革新的なソリューションを幅広い企業にライセンス供与することで、過去20年にわたるテック革命において重要な役割を果たしてきた。今後もArmは最先端技術の開発を続け、コンピューティングの未来を形作っていくとみられる。私たちのポケットの中にあるスマートフォンから、人工知能(AI)を支えるデータセンターに至るまで、同社の技術はあらゆる場所に浸透していくだろう。
テック業界を席巻する存在
Armは英国ケンブリッジに本社を置く半導体企業である。1990年に設立され、ここ数十年でテクノロジー業界、特にモバイルコンピューティング分野において圧倒的な存在感を確立してきた。これまでにArmの技術を用いたチップは世界で3,000億個1以上出荷されており、現在では世界人口の約70%1が同社の技術を利用しているとされる。
Armは電力効率に優れた中央演算処理装置(CPU)の設計を専門としている。CPUとはコンピュータ内で命令を実行する電子回路であり、いわばコンピュータの「頭脳」に当たる。ワープロのようなシンプルなプログラムの実行から、ビデオゲームのような複雑な処理まで、コンピュータが行うあらゆる動作を司っている。
CPUは、PCやノートパソコン、ゲーム機、医療機器など、幅広い電子機器に搭載されている。しかしArmがこれまで特に大きな成功を収めてきたのは、モバイルコンピューティング(すなわちスマートフォン)の分野である。Armはモバイルコンピューティングの可能性をいち早く見出し、モバイル機器向けに特化した省電力・低消費電力プロセッサの開発に積極的に投資してきた。これにより業界内で大きな先行者優位を獲得した。モバイル開発者によるArmアーキテクチャの採用が広がるにつれ、強力なネットワーク効果が生まれた。現在、同社のCPU技術は世界のスマートフォンの99%1以上に搭載されている。

出典:Arm Holdings、2025年5月7日時点
魅力的なビジネスモデル
Armは自社でCPUを製造しないという点で、魅力的なビジネスモデルを有している。同社は代わりにApple、Samsung、Qualcommといった企業に技術をライセンス供与し、各社はArmのCPU設計を用いて様々な機器向けの独自チップを製造している。このビジネスモデルの結果、同社の粗利益率は極めて高い水準にある。例えば2024会計年度のArmの粗利益率は95%2であった。
この成功したビジネスモデルは、大手テクノロジー企業の目にも留まらないはずがなかった。2020年当時、Armはまだ日本のテクノロジー・コングロマリット、ソフトバンクグループの傘下にあったが、半導体大手のNvidiaが400億ドルでの買収を試みたことがある。この取引は独占禁止法上の理由から規制当局に阻止され、最終的には成立しなかった。しかしNvidiaが関心を示したこと自体が、Armの潜在力の高さを浮き彫りにした。
特筆すべきは、買収は不成立に終わったものの、ArmとNvidiaは現在も協業を続けている点である。現在Nvidiaは、Armから20年間3のアーキテクチャ・ライセンスを取得しており、これによりArmの高性能ソリューションを幅広く利用できる立場にある。両社の協業の代表例が、Arm技術を活用したNvidia Grace CPUであり、データセンターおよびAIワークロード向けに設計されている。
長期的な成長余地の大きさ
近年、ArmはCPU技術に対する旺盛な需要を背景に、堅調な売上高の成長を実現してきた。2021会計年度から2024会計年度にかけて、売上高は20億ドルから32億ドルへと拡大し、年平均成長率(CAGR)は約17%2に達した。今後もさらなる成長が見込まれる。性能と効率性を独自に両立させたArmのコンピュート・プラットフォームは、現在以下のような高成長産業で幅広く採用されているためだ。
データセンター:Armの技術は、クラウドコンピューティングおよびデータセンター産業において採用が拡大している。特にサーバー分野では、高性能かつ電力効率に優れたコンピューティングシステムが求められており、Armの強みが生きている。現在、大手クラウドプロバイダー3社(Amazon、Microsoft、Alphabet)すべてがArmの技術を採用している。Amazonはクラウドワークロード向けにArm技術を活用した高性能Gravitonプロセッサを開発した。また、MicrosoftのAzure Cobalt 100プロセッサやAlphabetのAxionプロセッサにもArm技術が採用されている。
人工知能:生成AIの普及により、より省電力なコンピューティングシステムへの需要が高まっている。そのため、多くのAI企業がAI開発競争で優位に立とうと、Armとのパートナーシップを結んでいる。例えばMeta Platformsは、AIモデル「Llama」の開発においてArmと緊密に連携している。Arm技術を活用することで、MetaはスマートフォンをはじめとするさまざまなデバイスでAIを稼働させることが可能になる。
モノのインターネット(IoT):現在、Armの低消費電力プロセッサは、スマートウォッチ、フィットネストラッカー、スマートスピーカー、スマートサーモスタット、スマート照明、医療機器、産業用オートメーション・ロボティクス機器など、幅広いIoTデバイスに搭載されている。この分野は今後Armにとって主要な成長ドライバーとなる可能性がある。IoT Analyticsによると、世界の接続デバイス数は現在の約190億台から、2030年には4,000万台に達すると予測されている4。したがって、Armのプロセッサは今後も高い需要が続くとみられる。
自動運転車:Armアーキテクチャは、自動車業界で求められるハードウェア・ソフトウェアの複雑性に対応する独自の強みを持っており、現在世界の大手自動車メーカーの約3分の1、Mercedes-Benz、BMW、Toyotaなどと協業している。Armはこれらの企業が次世代のソフトウェア定義型車両の市場投入までの期間を短縮する支援を行っており、自動運転革命において重要な役割を果たすとみられる。
総じて、あらゆるものがつながるデジタル化の進む今日の世界において、Armは大きな潜在力を有していると言える。業界を横断してコンピューティングの未来を築いているのだ。同社は自社の対応可能市場規模(TAM)を、プロセッサを内蔵しうるあらゆるチップと定義しており5、その成長余地はまさに青天井と言える。また、チップの複雑化がArmのロイヤリティ収入の成長を後押ししている点も注目に値する。以上を踏まえ、当社は同社がテック革命、ならびにAI、高性能コンピューティング、自動運転車といった新興産業の成長を取り込む上で有利な立場にあると考えている。
脚注:
1 Arm公式ウェブサイト、Building the Future of Computing、2025年5月7日時点
2 LSEGデータ、2025年5月7日時点
3 Electronic Design、「NVIDIA、買収破談後もArm CPU計画を継続」、2022年2月21日時点
4 IOT Analytics、「State of IoT 2024:世界の接続IoTデバイス数は13%増の188億台に」、2024年9月3日時点
5 SEC、Arm Holdings Limited、2023年8月21日付で米証券取引委員会に提出